米国では子どもの肥満が深刻な問題となっていて、子どものうち、およそ3人に1人が肥満児といわれている。少なくとも10年前から、肥満児を減らすための対策措置がとられていたが、効果を発揮するどころか、年を追うごとに肥満児は増えている。
体質的に太りやすい、服用している薬の副作用などもあるだろうから、何が原因とは一概には言えない。しかし、多くの子どもが運動不足で、食生活の問題を抱えていることは明らかだ。
ニューヨーク市では白人の子どもたちが肥満率を減らしているなかで、黒人やヒスパニックの子どもたちの肥満はなかなか解消されていないという。
老若男女を問わず「貧しいほど肥満になりやすい」のは米国の常識だ。貧困地区に住むマイノリティの子どもたちは「値段が安くてカロリーが高く、調理に手間がかからない」商品の格好のターゲットになっている。
彼らの保護者は、食事を用意する時間や子どもに運動させる時間、エネルギーはもちろん、やる気を奪われているかのようだ。
オハイオ州では肥満の小3男児の保護者が、医師の指示に従わない「医療ネグレクト」だとして親権を剥奪されている。
『街場のアメリカ』(内田樹・文春文庫)のP204から以下引用
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肥満することは、彼らが豊かな食文化から阻害され、栄養学的知見から阻害され、効果的にカロリーを消費するスポーツ施設のアクセスから疎外され、カウチポテト以外の娯楽を享受する機会から疎外されているという「被差別の事実」を雄弁に伝えるほとんど唯一の社会的記号だからです。引用終わり
子どもさえも「被差別の事実」を伝える社会的記号としての肥満になっているのだろうか。
せめて公立学校に行っている子どもだけでも、学校を起点として「記号としての肥満」になることを避けられないものか。栄養に関する知識とスポーツ施設に優先的にアクセスする機会を与えて…。でも、これは部分的にはすでに行われているけど、あまり効果が出ていないようだ。
自分たちで食事を用意する力や「商品」のターゲットにされていることを意識させるというのはどうだろうか。彼らを上から管理して、知識を与えて、スポーツする機会を増やしても、今のところ結果は出ていないのだし…。
例えば、都会ならスーパーマーケットに行き必要な食材を買ってくること、少し土地に余裕があるなら自分で食材を育てること、基本的な調理方法を身につけること。ファーストフードへ行くよりも、自分で調理するほうが安上がりであることにも気づくはずだ。社会の「下層」で育っている子どもだけでなく、子どもたちに生活する力をつけることを考えなければと私は思う。
小学生以上なら、火も包丁も使わないサンドイッチやサラダなら作ることができると思う。子どもが学校で身に着けた調理能力で、肥満している親のために食事を作るというのもいいかもしれない。
子どもの力を見くびってはいけないと思う。彼らは管理されたり、守られるばかりでなく、時には誰かを助けるほうにまわることもできると私は思っている。
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