惨めな都市全米1位のデトロイト

 先日、ロイターの報道によると、デトロイトが全米の惨めな都市第1位になったという。http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE91L00820130222


 これには全く驚かない。失業率と犯罪発生率の高さ、街は廃墟だらけ。空き家だけでなく、数十年前には賑わっていた劇場やホテルや大きなレンガ造りのビルが、ごっそりそのまま廃墟として建っている。割れた窓ガラス、汚れてくすんだ色の外壁、中はがらんどう。街の中をぐるぐるとまわっているだけでも、まるで異次元にやってきてしまったかのような錯覚に陥る。http://webronza.asahi.com/global/2012112700002.html


 ツイッターでは、それでもここで暮らしている人たちには、ひとりひとりの生活が営まれているのだと書いた。

デトロイトの子どもたちを対象にした読書教室やhttp://business.nikkeibp.co.jp/ecomom/report/report_317.html、スポーツ活動もいくつか取材させてもらったが、子どもたちは清潔な洋服を着ていて、勉強し、スポーツしていた。読書教室に通う80%以上の世帯が低収入世帯で、昼食費の減免措置を受けているそうだが、そこで会った子どもと親たちは、中流層の多い郊外に住む子どもたちと何ら変わりはないと思った。そういったプログラムに子どもを参加させている人たちは、少しでもよりよい環境を求める意欲のある人たちなのかもしれない。

 昨年の4月、デトロイトのアーバンファームを取材した。http://webronza.asahi.com/global/2012051100002.html
 街中の空地を放置しないため、低収入世帯の人たちに新鮮な野菜を提供するという目的で運営されている。この農場のなかには食堂があり、近隣の人と農場で働く人たちに無償で昼食を提供している。取材の後、私もここで昼食をいただいた。食堂内は撮影禁止だった。

 小さな学校の食堂とでもいうべき大きさ。50人から100人くらいは入れそう。トレーを持ってカウンターに並ぶと、農場で採れた野菜をソテーしたものと、ハム、ジュース、パン、スープといった内容の食事を受け取る。メニューの選択肢はない。

 昼間から無償で提供される食事を求めて並ぶ人たち。
 健康状態が悪いのか、足をひきずりながら歩くのがやっとといった状態の人、独り言をつぶやいている人、とにかく近くの人にケンカを売って歩く人。そして無償の昼食のわずかな食べ残しを回収するためにテーブルを回っている人。身に着けている洋服も汚れている。定期的に洗濯したものではなさそうだ。

 私は平静を装っていたけども、ああ、これがデトロイトのもうひとつの現実なのかと思って、食欲が萎えた。隣に座った農場のインターンの人とおしゃべりしながら、何とか全部、食べた。

 昼間からウロウロし、なんとなく挙動不審そうな人たち。(のように私には見えた)。でも、「ハイ!」と声をかけ、少しでも言葉を交わせば、その人たちは「デトロイトの最貧困層」や「デトロイトのホームレス」ではなく、名前のある人たちになる。名前のある人たちには、それぞれの生活がある。夜はどのように過ごしているのだろうか。ネグラを持つ人もいれば、シェルターに泊まっている人もいるのかもしれない。

 仕事もなく、お金もなく、この食堂に集まってくる。食堂内には無料のシャワー室もある。ここに来るほかには、シャワーを浴びることのできない人もいるらしい。誰かの言う「マトモな生活」はあきらめ、投げ出しているようにも見えるけども、「生きること」はあきらめていない。こうやって食事をして、残り物も回収して、来るべき明日に備えている。たとえ、惨めな都市1位と言われても。