タイガースは開幕直前にミゲル・カブレラ一塁手と2015年までの契約を2023年まで8年延長することで合意した。8年総額は2億4800万ドル。平均年俸は3100万ドルとなり、これはドジャースのカーショー投手の3070万ドルを抜いて、メジャーリーグ史上最高。現在の契約の残り2年を含めると10年契約2億9200万ドル。ヤンキースのアレックス・ロドリゲス内野手の契約を上回り、大型契約としても史上最高額となった。
カブレラは30歳。(4月18日には31歳に)。2012年には45年ぶりの三冠王になり、11年からは3年連続首位打者。メジャーリーグ屈指の強打者であるだけでなく、メジャー史に残る強打者といってよいだろう。
もちろん、カブレラが40歳までケガをせずにプレーできる保障はなく、急激に衰える可能性も否定できない。あまりにも一般の人たちの収入とかけ離れていることや、財政破たんしたデトロイト市と比較して、この超大型契約に否定的な見方があるのも事実だ。
しかし、タイガースファンにしてみれば、カブレラの契約延長はとても喜ばしいこと。カブレラが「残りのキャリアをタイガースのユニフォームを着続けられる。これほど興奮することはない」とコメントしたとおり、引退するまでタイガースの選手としてプレーすることを意味するからだ。
3月31日、ホームの開幕セレモニーでは、「ミゲル・カブレラ」のアナウンスに、ひときわ大きな声援が沸き起こった。FAになっていれば、ニューヨークヤンキースやロサンゼルスドジャースといった財力と人気のある球団と契約していたかもしれないのだ。
タイガース球団にとってはこの契約は大きな賭けであるだろう。球団はなぜ、ギャンブルに踏み切ったのか。
デトロイトでは、イリッチ・オーナーが、カブレラこそデトロイトのスポーツ史に残る選手だと見込んだからだと推測されている。タイガースの選手として殿堂入りして欲しいとの思いがあるようだ。
カブレラは03年にマーリンズでデビューしているが、08年にタイガースに移籍。リーランド前監督の下、持って生まれた素材をあますところなく発揮。タイガースには長く、長く不在だった待望の超メジャー級選手に成長した。デトロイトの街にも、NFLライオンズのRBだったバリー・サンダースが90年代に活躍して以来、全米に誇れるスター選手がいなかったのだ。
「ミスター・タイガー」は、生え抜きで殿堂入り外野手であるアル・ケーラインを指す。ケーラインは好守で知られているが、メジャー3年目に首位打者と最多安打を達成した以外は打撃タイトルを獲得していない。それに、1950~60年代に活躍した選手で、今や現役時代を知らない人がほとんど。球聖タイ・カッブもタイガースの選手だが、こちらは歴史上の偉大な選手という扱いだ。
カブレラは4月4日のオリオールズ戦で、八回に本塁打を放って通算2000本安打を記録。感想を聞かれても「1000本もヒットを打つなんて考えたこともなかった」と話す。デトロイトのレジェンドにと期待されても、力が抜けている。それも、この人の強みだろう。
谷口輝世子