子どものスポーツの練習量はどのくらいが適切なのか。

ツイッターで日本の学校部活動で指導にあたっていらっしゃる学校の先生方の負担の大きさが話題になっています。

内田良先生はヤフーにこのような記事を出していらっしゃいます。


部活動 先生も生徒も 本音は「休みたい」――「みんなやりたいと思っている」勘違い(内田良) - 個人 - Yahoo!ニュース

部活動は週に何日ぐらいが適切なのか。

部活動は中高生が課外で行うもので、放課後に部活動をしていても正規の授業を受けるのに必要な宿題をする時間などが確保できるよう、学業に支障のでない範囲でなければいけません(という大義名分)

私は、運動部活動の種目によっても適切な練習時間や練習量は異なると思います。

種目だけでなく、小学生、中学生、高校生、それぞれの年代によってふさわしい練習量、練習内容は大きくちがってくるはずです。

学校教育の場合は、文部科学省がそれぞれの学年に応じた学習指導要領が定めていて、各学校がそれをもとにカリキュラムを作っています。

運動部の場合も、各種目ごとに連盟が、子どもの心身の発達に詳しいスポーツ医学やスポーツ心理学、体育科教育や指導歴の豊富な人を召集し、年代に応じた練習内容と練習量のガイドラインを作るといいのではないでしょうか。

たとえば、USAアイスホッケーでは育成モデルとしてこちらを作成しています。

http://assets.ngin.com/attachments/document/0041/7772/ADM_Chart_for_Annual_Guide.pdf

USAアイスホッケーの場合は、幼児期から試合を重視して練習を軽視する米国人の保護者が多いことから、それを警告する意味合いで練習量と試合の割合を提示しています。(日本とは逆です)

もちろん、これは絶対に従わなければいけない基準ではなく、ガイドラインでしかありません。アイスリンクを使用するという物理的な制約があるため、これよりも練習量が少ないチームもたくさんあります。

このガイドラインの効力について私は次のように感じています。

例えば幼児や小学校低学年の子どもの保護者が「もっと試合をさせて欲しい」「もっと練習日を多くしてほしい」と指導者に対して要求した場合、指導者側は「USAホッケーの基準に則って練習内容と量を決め、試合日程を組んでいる。ホームページを見てください」と説明すればいいわけです。練習内容と練習量の根拠をUSAホッケーに求めれば、保護者の理解を得られやすいことを個人的に体験しています。

中学生や高校生が「試合に勝つためにはより練習量が必要では?」と問いかけてきたときにもUSAホッケーの基準から、全体練習に適当な練習内容を考えていけばよいと思います。自分のチームは勝利至上主義ではないので、このガイドラインの8割程度の全体練習の量を抑えるという方針もありだと思いますし、強豪校ならばその逆もあり得ると思います。全体練習量を抑えた場合には、より練習をしたい選手に個別練習の場所を提供するか、個人レッスンの情報などを提供してほしいと私は考えています。

また、高校のアメリカンフットボール部は秋からのシーズンに備えて8月から練習がはじまりますが、暑い時期にいきなり防具をつけて練習すると熱中症のリスクが高まります。そのため、州の協会ごとに練習の〇日目までは防具なし。〇日目からはヘルメットだけ。〇日目からはフル防具可能などと定めています。二部練習は練習開始日から〇日目以降。2日続けて二部練習を行わないなどとなっています。

アメリカンフットボールの場合は、規則で定められていますから、これに従わなければ州の協会からペナルティがあります。

こちらはアメリカンフットボールの盛んなテキサス州の高校リーグの規則です。

https://www.uiltexas.org/files/constitution/uil-ccr-section-1250.pdf

ぱっと見てもらうと分かると思いますが、練習時間の規定はかなり細かいです。指導者はこれを読み込んで、選手に分かるように伝えなければいけません。

ミシガン州の話ですが、強豪校だと練習量で規則違反をしていないか、ライバル校から偵察が来ていることがあると聞きました。違反している場合は対外試合ができないなど厳しい罰則があるそうです。

子どもの発達に応じた練習内容、熱中症などの事故やケガ防止の観点からの練習内容と時間のガイドラインを、各種目に精通したスポーツの専門家によって作ってみるのがいいのではないかと思います。もちろん、おかしなところがないか、実践するのに困難が大きすぎないか、常に現場からも研究者からもチェックされる必要があります。ガイドラインなので絶対に守らなければいけないものではなく、基準として使えばよいと思います。

ガイドラインがあることで、これを元に保護者や生徒と適切な練習量について話し合うこともできます。同じ部活動をしていても個人によって疲労度も熱意も少しずつ違います。さらに練習をしたい選手は全体練習以外の場が与えられるようにと思います。

追記。

1、USAホッケーに関しては、ADMという育成モデルを告知するのに相当に力を入れていたと思います。ガイドラインを作ってそれを取り入れてもらえるように、関わった専門家や元選手たちがこのメリットを何度も繰り返しいろいろなメディアで伝えてきたという背景があります。

2、アメリカの場合は全体練習は少ないですが、個人レッスン、グループレッスンなど学校外で有料のものを受けている子どもが少なくありません。これは日本で学校の授業の補習または受験対策のために学習塾の需要があるのと同じ構図です。ですから私は、全体練習を制限して、自主練習をしてもらう場合でも、お金がかからず利用できる場が提供されることを望んでいます。