ロッククライミングの登攀ルートには、なぜ、女性の身体に関する名前がつけられているのかの追記

 

私はヤフー個人にロッククライミングの登攀ルートには、なぜ、女性の身体に関する名前がつけられているのか。という記事を投稿しました。

 

その内容は大まかにいうとこのようなものです。

  • 米国やカナダのロッククライミングのルートは女性の身体に関する名前や性的な名前のついたルートがある。
  • これらのルート名について性差別や人種差別につながるという意見はある。
  • 私自身は、日本の山岳信仰の影響を受けており、私は岩や山を人間の身体、または、性器に見立てることに不快感はない。
  • ただ、タンポン・アプリケーターという名前があると聞き、私は命名センスが今ひとつのように感じた。
  • カナダでのルート名について書いており、日本のロッククライミングのルート名については書いていない。記事投稿後に「ポコチン大魔王」という岩があることを教えていただいた。(テレビでも取り上げられたそうです。https://togetter.com/li/904476



この記事を発表した後、ルート名にどのようなものがあるのか。そのようなルート名は存在するのか、どうしてそのような名前がついたのかの経緯を書く必要があるというご指摘がありました。

 

また、同じ方から私の書いた記事は専門家などにインタビューをしていないというご指摘もいただきました。専門家やクライマーへの取材ができていないことは今後の課題とさせていただきます。

 

以下に参考となる資料を示していますが、ここでも性的な名前のルートに問題があると考えている研究者とその内容の紹介にとどまっています。表現の自由や名前には問題がないと考えている立場の意見を現時点では、取材できていませんし、研究資料として見つけられていないことは今後の課題とさせていただきます。

 

では、どのような性に関する名前のルートがあるのか、どのような経緯でつけられたのかなどについて。

 

登山家で、カナダのメモリアル大学の野外教育の教授であるTA・ローフラーは、1996年に

「セクシャル・ハラスメントと体験教育プログラム」という研究を発表しています。

Loeffler, T. A. TITLE Sexual Harassment and Experiential Education Programs: A Closer Look.

https://files.eric.ed.gov/fulltext/ED412047.pdf

 

ローフラーは米国の性に関する名前がついたロッククライミングのルートを次の4冊のガイドブックなどからまとめています。

 

Harlin, J., III. (1986). The climber's guide to North AmericaEast Coast rock climbs. Denver, CO: Chockstone Press.

 

Steiger, J. (1985). Climber's guide to Sabino Canyon and Mount Lemmon Highway. Glendale, AZ: Polar Designs Publication.

 

Waugh, J. (1982). A topo guide to Granite Mountain. Glendale, AZ: Polar Designs Publication.

 

Webster, E. (1987). Rockclimbs in the White Mountains of New Hampshire (2nd ed.). Eldorado Springs, CO: Mountain Imagery.

 

ローフラーがガイドブックで調べてリスト化した米国のロック・クライミングのルート名です。

Names Referring to Female Anatomy

Big Breasted Bikers

Throbbing Labias Magnolia

Thunder Pussy

Here Come the Jugs

 

Names That Degrade Women

Bitch Topless Tellers

Crazy Woman Driver
Happy Hooker

 

Names About Sexual Violence

Cornholer's Incest

Gang Bang

Double Ganger

Slam Barn Book Jam

Matricide

Jack the Ripper

Slammer Jam

Assault and Battery

Psycho Killer

 

Names Referring to Male Anatomy

Dildoe Pinnacle

The  Phallus

Family Jewels

Handsome and Well-Hung

 

Names that Degrade Gay People

Ethics are for Faggots

Homosexual Armadillo

Flirting with Dikes

Revolt of the Dike Brigade

 

Names About Sex

Foreplay

For Sexual Favors

Ménage a trois

Orgasm

Celibate Mallard

Swinging Hips

 

女性器を表すThunder Pussy、

輪姦を表すgang bang

売春婦を表す happy Hooker

人工ペニスの先端 Dildoe Pinnacle

ホモセクシャルアルマジロHomosexual Armadillo

などがあります。

 

これらのルートのひとつひとつがどのような経緯で、名前がつけられたのかは分かりませんが、ローフラーはこのように書いています。

In some settings, outdoor adventure programs are male-dominated and filled with sexual joking. Examples of this joking are found in published rock-climbing guides

 

「いくつかのセッティングでは、アウトドアのアドベンチャープラグラムは男性優位であり、セクシャルなジョークでいっぱいになっている。これらのジョークはロッククライミングガイドで見つけることができる」としています。

 

ローフラーは一部の状況セッティングでは男性優位になっており、セクシャルなジョークが多く、それがネーミングの背景にあることを示唆しています。

 

ローフラーはアウトドア環境でのセクシャル・ハラスメントを認識することにより、男性にとっても、女性にとっても、これらの活動にアクセスしやすく、安全で、力を与えるものになると意見を述べています。

 

ローフラーの研究発表は、30年以上の前のガイドブックを元に作られたリストですが、ロッククライミングのプラットフォームで性的な名前のついたロッククライミングのルートがあることが分かります

 

女性器を表すPussyで検索すると以下の複数のルートにヒットします。

 

https://www.thecrag.com/climbing/canada/calabogie/area/940506120/search?S=%E3%80%80pussy

 

男性器を表すPhallusで検索すると以下の複数のルートにヒットします。

 

https://www.thecrag.com/climbing/canada/calabogie/area/940506120/search?S=phallus

 

このサイトには初めてクライミングに成功した人の名前が書かれていますが、どのような経緯で名前がつけられたかは不明です。

 

タンポンアプリケーターはこちらです。

https://www.thecrag.com/climbing/canada/calabogie/route/211621491

 

また、2018年11月の国際アウトドア教育研究カンファレンスでも、ロッククライミングのルート名についての研究が出されています。

 

https://www.usc.edu.au/media/19143235/ioerc8_final_abstracts_18_11_18.pdf

こちらのPDF34ページ、#74です。

 

The Cultural Politics of Naming Outdoor Rock Climbing Route

研究者はカナダのクイーンズ大学で博士課程に在籍しているジェニファー・ウィグルワースです。ウィグルワースはルート名の研究ではなく、性的なルート名が女性クライマーにどのような影響を与えているか、与えていないのかを研究しています。ウィグルワースは米国ネバダ州のパンティラインというルートなどで女性のクライマーに調査をしているようです。

 

ヤフーの記事は、何が言いたいのか分からないというご指摘もありました。

記事を書いたのは、次のようなことを読者の方と共有しようと思ったからです。

  • 北米には性的な名前のついたロッククライミングルートがある。
  • その名前のつけ方には、表現の自由とする意見と、差別的表現であるという意見がある。



今日の時点での私の意見

  • これらは男性だけのスポーツのロッカールームなどで使われているような単語ではないだろうか。ロッカールーム内にとどまっている分には問題になることは少ないだろうが、ロッククライミングのルート名になると差別的表現だ見なされるものもある。

 

  • ただ、オンラインのプラットフォームで改めていくつかの単語使ったルートを調べたが、どこまでが差別表現で、どこからが差別表現でないか、という線引きは難しいだろう。

 

  • 一度、つけられた名前は、性的な名前でも、すぐに変えることは現実的でないと思う。誰が変更を求めるのか、最初の命名者が新しい名前を変更できるのか、などの問題があるのではないか。

 

  • ルートに性的な名前がついていることで、そのルートを避ける人がいるのだとしたら、クライミング界にとってもったいない。また、その人がクライミングの機会を逃したことになるのではないか。

以上です。