過去の組み立て体操の記事

 組体操とチアリーディング

この記事は2015年にウェブ論座に掲載したものです。もとがリンク切れになったため、こちらに残します。

 

 日本では運動会のシーズン。見栄えのする組体操は花形種目のひとつだ。

 日本の運動会で発表される組体操は、最近、巨大化、高度化、低年齢化がすすんでいるという。高さ7メートルに達する10段、11段のピラミッドがあるそうだ。 名古屋大学大学院教育発達科学研究科の内田良准教授が日本スポーツ振興センターの資料から調べたものによると、2012年度の小学校の体育活動時における事故発生件数は6533件で、跳び箱運動、バスケットボールに次いで3番目に多いものとなっているという。今年5月には熊本県の中学校で組体操のピラミッド練習中にいちばん下にいた男子生徒が全治1か月程度の腰椎骨折と診断される大けがをしたそうだ。高所に上る児童・生徒だけでなく、土台になる子どもたちも大きなケガをすることがある。

 

 -各国運動会事情-

 では、日本以外で学校行事として運動会があり、組体操のような演技種目を行っているところはあるのだろうか。グローバルプレスの執筆陣から回答をもらった。

 

 中国北京(斎藤淳子さん)

 運動会は毎年行われているが、日本のように大掛かりなものではなく、縄跳び、徒競走、リレーなどがある程度。組体操に類する出し物はない。

 

イギリス・ロンドン(冨久岡ナヲさん)

「スポーツ・デー」はあるが、(個人競技が多く)日本の運動会とは趣旨が異なる。組体操のようなものはない。

 

  シンガポール(田嶋麻里江さん)

 ローカル校では運動会に相当するものはない。インターナショナル校では独自にスポーツイベントを行っている学校はあるようだが、日本式の運動会はまずないと思われる。

 

 スイス連邦チューリッヒチューリッヒ市第8区。(中東生さん)

 スポーツデイがある。組体操のようなものはない。

 

 ミャンマーヤンゴン(板坂真季さん)

運動会はない。学校や地域によって体育の授業自体がないところもある。組体操はない。

 

『体育科教育2014年9月号』(大修館書店)によると、シリアについては「多くの学校では、日本のような体育館や土の運動場が見当たらない。運動場はタイル張りの校庭というのが一般的なスタイルである」とレポートされており、ドミニカ共和国についても「地域や学校によっては体育が実施されていない」と報告されている。

 

 筆者の住む米国ミシガン州

 フィールドデーという学校行事があるが、球技大会や徒競走、リレーのようなものをして「遊ぶ」もので、日本の運動会とは異なる。全員参加の組体操もない。

 

 今回、回答をもらった国では運動会そのものがないか、運動会があっても組体操のような集団演技は行われていないようだ。

 

-チアリーディングと組体操― 

 米国では運動会の種目として組体操は行われていない。しかし、比較的似た要素を持つチアリーディングがある。かつては女子生徒中心の振付による応援スタイルであったが、ここ20-30年の間に一気に競技化し、演技の高度化、スタンツ化がすすんでいる。

 ベースの人に持ち上げられた2段目の人は片足立ちをするだけでなく、トランポリンを利用しているかのように投げ上げられた状態から回転ジャンプすることもある。それを土台となる人たちが受け止める。

 2012年に米国小児科学会では、チアリーディングは、スポーツ時のケガの原因に占める割合は少ないものの深刻なケガの起こりやすい種目であると警告を発している。

 米国小児科学会では、次のようなチアリーディングの安全基準を提案している。

 「チアリーディングはスポーツと見なされなければならない。そして、他のスポーツと同様に、資格のあるコーチによる指導、医療へのアクセス、練習の制限、施設の充実、ケガの監視データの包括が行われなければならない」としている。他の競技スポーツで考慮されているのと同等の安全基準が必要であるということだ。

 チアリーディングでは、日本の組体操のピラミッドとはやや異なるが「ピラミッド」という形がある。日本のように土台の人の背中に乗るものだけでなく、土台の人も上の人も立った状態で積み上げていく。この状態で上の人をリフティングしたり、投げ上げたり、受け止めたりするという技もある。米国小児科学会では「ピラミッドなどを行う場合は練習でも競技であっても、フォーム状かバネのやわらかいところか、芝地やターフでのみ行わなければならない」と落下のリスクを見込んでクッション性のある場所で行うよう強調。「ピラミッドは2人分の身長の高さを超えるべきではない」と高さを制限している。AACCAと称される米国チアリーディングコーチ・管理者の協会でも詳細な安全基準を作り、ホームページにも安全に関する項目を設け、参加する選手や保護者によくわかるようにしている。

 米国では、大けがの発生を指摘されているチアリーディングだが、チアリーディングの競技化そのものを止めるという動きは起こっていないようだ。ただし、大けがのリスクを減らすための基準作りには着手している。

 日本の組体操でも、米国のチアリーディングのように医療や教育分野の専門家たちがリスクをよく検証し、子どもの発達に応じた制限や安全のガイドラインを設けるというのはどうだろうか。チアリーディングは学校の児童・生徒全員が参加するものではなく、希望者と保護者がケガのリスクを知って参加している。学年全員が参加するような運動会の組体操では、子どもたちの体力やバランスの能力により配慮が必要になるだろう。組体操に一定の制限や安全基準を設け、高さや大きさを目標に掲げなくても、児童や生徒はお互いの身体によってひとつのものを作り出して発表するという一体感や達成感は十分に体感できると、筆者は考えている。

 

写真 チアリーディングでも組体操と類似する動きがある。

  1. 赤いユニホーム着用の4人組での演技。©123rf/william Perugini

2、カリフォルニア州の高校フットボールチアリーダーによる演技。(黄色と青のユニホーム)©Americanspirit/Dreamstime.com