the administration and cost of high school interscholastic athletic (2) 体育科教員が運動部コーチをするべき

100年前に調査されたthe administration and cost of high school interscholastic athletic という資料を読んでます。

 

生徒が全く勝手にやっていた運動部活動を、学校のなかに取り込んでいく時期の調査です。

誰が運動部のコーチをやっているかという実態調査もされていて、

ほぼ学校の教員で占められていて、体育科教員が多いのです。

ただ、この調査者は、チームスポーツは体育科教育の中心になるものと提唱されている割には、他の教科の教員がコーチをしていることが多いのではないかと疑問を投げかけています。

 

例えば、体育教師にその種目の競技経験がない場合、競技経験のある他教科の教員や地域の元選手にコーチ職を取られてしまうと。

 

それと、たまにしか勝たない地域はパブリックの応援を得られないと書かれています。

だから、勝つことへの重圧があると。

 

運動部を、教育の論理か競技の論理で運営するのか、という問題は日米でもさんざん指摘されていますが、

100年前はパブリックの支持を得られないと書かれています。今だったら、保護者から苦情が来るとかになるかもしれないな、と思いながら読んでいます。

The administration and cost of high school interscholastic athletic

 

the administration and cost of high school interscholastic athletic 

この本は1923年から1924年の間にアメリカの州の高校体育協会と学校運動部についての調査がまとめられています。

 

各州の高校体育協会・連盟が設立された背景

 

 

 

  1. 州の高校体育協会は、教育の目的や理想に反する、ある種の悪質でスポーツマンシップに反する行為をチェックするために組織されている。
  2. これらの協会のほとんどは、まだ発展途上の段階にあり、組織の形態も多様である。責任の分散を伴う会則の改正や、参加資格規定の強化、規制・管理する競技種目の増加、州選手権大会の実施方法の改善などの変更が頻繁に行われている。
  3. ミズーリ州、ネバダ州、テネシー州の3州は、学校対抗試合を管理・規制するための州組織を持たない州である。これらの州では、管理および規制はまだ地方またはセクション単位で行われているが、それぞれの州で学校関係者たちが州全体で組織化しようとする動きがあった。ネバダ州は、数年前にそのように組織されたが、そのような組織は機能しなくなった。

 

まだ完全に組織化されていない状態だった100年前のアメリカの学校運動部

当時、問題視されていたこと。

 

出場資格の問題 

通学区域外の生徒が、運動部に入っている。出席日数の足りない生徒が運動部に入っている。学校を退学した生徒、停学処分になっている生徒が運動部に入っている。偽名を使って運動部に参加している人物がいる。

賞金・賞品

高額な賞品や賞金を高校生選手が受け取っていた。

主催者

州の大学が高校運動部のスポンサー(会場を提供、大会を主催など)しているケースが少なくなかった。大学から離れて、高校運動部として活動する

 

上記を読むと、競技で優位にたつために、替え玉選手や、他校の生徒が紛れ込んでいたり、退学や停学処分になっている生徒がプレーしていたことが推測できる。また、大会が見世物化し、学校外の民間企業スポンサーから高額な賞金や賞品が与えられていたことがわかる。

 

州の高校体育協会は、規則を整備し、競技の公平性を守ることを目的として設立されたといえる。替え玉選手や越境で入部している生徒をなくす。また、高校の運動部はアマチュアの活動であることを強調し、賞金・賞品等のやりとりを禁止することが目的だった。大学主催で複数の州が集まる大会が開催されたが、それぞれの州の高校体育協会の規則が違っているため、どの規則下で競技するかという点で混乱が発生している。

 

このレポートでは、設立されたばかりの州の高校体育協会・連盟の収支も公開されている。

これも州によって違いはあるが、加盟校からの参加費、州が主催する大会の入場料、ハンドブックの販売などを収入としている。ただし、このレポート作成者は、入場料収入は商業化につながるので、学区や学校の費用でカバーするべきだと提案している。また、州の高校体育協会・連盟は州の教育省とつながるべきだとしている。

 

アメリカのエビデンスに基づく教育。学校で部活動をする教育的意義はあるのか。

地域×スポーツクラブ産業研究会の第14回資料を読みました。

学校から部活動を切り離すことについての反対意見に対し、「部活動が担ってきた教育的価値があることは確かだが、一方で学校外だと提供できない教育的価値とは何か」という問いかけがなされています。

https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/chiiki_sports_club/pdf/014_02_00.pdf

ツイッターでは、学校で部活動を行うことは教育的価値のあることだという意見が、ことごとく論破されているという感想も見かけました。

(この文章では、学校で活動を行う意義があるかどうかを論じたり、主張するのではなく、アメリカではこういうふうに教育的価値があるかどうかを検証して、実践につなげようとしていることを紹介しているだけのことです。ただし、教育的価値を示す科学的根拠(エビデンス)と、それを基にした課外活動の実践の提案が、学校でそのまま取り入れられているかどうかは別問題で、この別問題の部分については、別の機会にレポートします)

部活動の教育的価値とは何なのか。

アメリカではエビデンスに基づく教育実践を行うことが求められています。公的資金を投資して教育を行う以上、予算獲得のための説得力のあるエビデンスが求められるようになっているからです。

 

2002年にはアメリカの教育省所管のもとに、教育分野におけるエビデンスを扱うWWC情報センターを創設し、学力達成や退学防止など、様々な分野における教育実践の効果を測定してきた。(宮本、2020,『アメリカにおける効果測定制度の運用と実態―「エビデンスに基づく人権教育」の特質と課題)

 

 

課外活動(アメリカではextracurricular activityと表現されているので、日本語訳も課外活動にします)もその例外ではありません。全米高校協会によると、課外活動には、学区の教育予算のうち、およそ1-3%が使われています。

 

このWWCで課外活動の教育的価値について、どのようなエビデンスが提示され、これに基づく教育実践が提示されているのかを調べようと思いました。Extracurricularで検索すると35件出てきました。

 

そのひとつが米国教育省下の教育科学研究所による退学防止実践ガイドです。

https://ies.ed.gov/ncee/wwc/Docs/PracticeGuide/dp_pg_090308.pdf

 

さきほど、私は、公的資金を投資して教育を行う以上、説得力のあるエビデンスが求められる、と書きました。このガイドでも、冒頭にお金の話が出てきます。「社会全体において若者が高校を卒業することは価値ある目標である。中退者の収入は卒業した者より、平均で9000ドル低く、生涯年収では26万ドル低い。低スキル労働者の雇用が減少するにつれ、中退者の経済的影響はさらに悪化する可能性がある 。中退者の納税額は、高卒者の約半分に過ぎない。フードスタンプ、 住宅扶助、生活保護など、政府からの補助が多い。中退者は刑務所に入る確率がかなり高く、健康状態も悪く、平均寿命も短い」と書いてあります。

 

高校を中退した人は、将来的に収入が低くなり、納税する額も少なくなり、さらに政府からの援助を必要とする率が高い。したがって、若者が高校を中退してしまうことは、近い将来、社会にとってもコストのかかることなのだ、という考え方です。ですから、中退者の増加が、将来的に社会にとってコストのかかることになるのなら、今、公的資金から教育投資を行って中退者を減らすほうが、あとで社会がコストを支払うよりもよいのだ、ということになっているのだと思います。今、公的な教育投資するといくら得なのか、という金額までは書かれていませんでした。探せば別のところにあるのかもしれません。

 

では、この実践ガイドとはどのようなものなのでしょうか。

『米国のエビデンス仲介機関の機能と課題』(豊浩子 国立教育政策研究所紀要 平成23年3月)によると、

「実践ガイド」は、カリキュラム、教員研修、評価、アカウンタビリティなどの分野にわたる、広範囲の解決を要する特定の問題に関する実践について、首尾一貫したガイダンスと提案を提供する。「実践ガイド」は入手可能なベストのエビデンスを取り入れ、特定の提案を支持するエビデンスの質について利用者に注意を促す。「実践ガイド」は連邦教育省によって広く普及されることになっている。(以上、U.S. Department of Education 2007 より引用)

 

2008年に作成された退学防止実践ガイドでは、退学を防止するために6つの提言を行っており、その提言の一つに「学習環境と指導プロセスのパーソナライズ」があり、この提言のなかに「課外活動への参加を推奨する」があります。

 

「中退防止のための介入は、生徒が学校生活でポジティブに行動する能力を高めるために必要な生徒の問題解決能力とライフスキルの発達を求めてきた。これらのスキルはクラスのなかで支障をきたさないようにするだけでなく、職員や仲間と良好な関係を築く方法を教えることになる。職員に助けを求めたり、学校の社会的な活動、課外的な活動に参加したりすることで、意味ある学校との結びつきを生徒に与える」

 

また、推奨されていることをどのように実践するのかについても書かれています。

課外活動については、教職員が生徒を招く、と書かれています。課外活動にはスポーツ、クラブ、遠足、奉仕活動、ゲストスピーカーなどが提案されており、退学のリスクのある生徒には課外活動について調査し、どのような課外活動クラブやグループが結成されるかを知らせる、と書かれています。

 

退学を防ぐためのエビデンスに基づく実践として、課外活動を提供し、参加することをすすめることが挙げられている、ということになります。退学を防ぐための対策はいくつもあり、そのひとつが課外活動への参加です。生徒が課外活動に参加することによって、退学を防ぐことができ、高校を卒業したならば、中退した場合に比べて高い収入が得られることが予想でき、公的な金銭的支援を必要とすることも少ないことが予想できるので、課外活動に公的資金を投資するのは、社会や国にとっても効果のある投資であると説明責任を果たすことができる、といえます。

実践ガイドには各エビデンスの信頼性も示されています。この課外活動についての実践ガイドのエビデンスレベルは中となっていました。「中」は「エビデンスは、強い因果関係の結論を裏付けるが一般化が不確かな研究、または、一般性を裏付けるが因果関係が不確かな研究」となっていました。

 

学校で中退を防ぐための実践のひとつに、生徒に課外活動の参加を促すことがありますが、学校での課外活動の提供をやめて、その代替として地域のスポーツクラブでスポーツ活動を提供した場合にも同じように退学を防ぐ効果があるかもしれませんし、学校の課外活動よりもその効果は低いかもしれませんし、もしかしたら高いかもしれません。これは、ここではわかりません。

 

WWCで課外活動と検索すると35件ヒットしたのですが、課外活動の教育的価値を示す研究が35件蓄積されているというわけではなさそうです。

 

また、全米高校協会でも、学校で課外活動を提供する根拠となるエビデンスを49の研究論文から提示しています。こちらはWWCや教育科学研究所のようにエビデンスレベルは示していません。全米高校協会では、アメリカの中高校の課外活動の総本山みたいなところなので、学校で課外活動を提供するための根拠となるエビデンスを抽出してきて、それを提示しているとも言えます。これについては、現在発売されている「体育科教育5月号」(大修館書店)でもふれていますので、目を通していただけると幸いです。