2024年2月某日 取材日記

2月某日 取材日記

 

今年のキャンプ取材はデトロイトタイガースの取材もした。フロリダ州レークランドというところで、セントラルフロリダと言われている地域だ。ある日、フリーウェイではなく、下道を使って、西のタンパ方向へ車を走らせていた。

 

前をスクールバスのような乗り物が走っていた。そろそろ夕方にかかろうかという時間帯だったので、フロリダのスクールバスは緑色のものもあるのだろうかとぼんやり考えていた。それにしても、ボロボロのバスだなとも思った。

 

前を走っていたそのバスは、農場らしきところで左折した。そのとき、たくさんの人がぎゅうぎゅう詰めに座っているのがちょっと見えた。その農場には、緑色のスクールバスの形をしたバスが他にも止まっていて、腰をかがめてイチゴの収穫をしている人たちの姿が見えた。そこで、ようやくわかった。あのバスは農場で働く人たちを乗せているバスなのだということが。

 

私はアメリカに25年も住んでいる。スポーツのイベントを追いかけてあちらこちらへと移動し、ときどき、農場の近くを車で通過するということはあるし、大型の農業用の機械や、農薬散布の装置を見ては、こういう大きな機械で、広大なアメリカの農業地で作物を育てているのだと感心していた。

 

しかし、大勢の人が一斉に農場で作業をするところを見たことがなかった。作業をしているひとりひとりの人が、どういう人なのか、私は全くわからない。アメリカ人なのか、どこかの国から来た移民の人なのかも。でも、ぼろぼろのバスに揺られて作業現場まで移動していることから、よい待遇で働いているとは言えなさそうだとは感じた。

 

ちょうど、この何日か前、熱中症の記事を読んでいた。フロリダではこの2年間に、屋外で労働していた7人が亡くなっている。フロリダ州では、屋外での労働者を守るために、休憩や水分補給を義務付ける法案が何度も出されているというが、ほとんど成立していないという。

 

私は、子どものスポーツも取材していて、熱中症を防止するために、いくつかの対応策が取られていることを知っている。これまでに、スポーツしている子どもが熱中症になり、死亡するという悲しい事故が起こってきた。なぜ、防ぐことができなかったと考えるし、管理責任を問いただす声もたくさん出た。

 

屋外で働く人が熱中症で亡くなったとき、私は子どものスポーツにおける熱中症を考えるようには考えていなかった。率直にいえば、気を付けていれば防げたのではないかという「自己責任」の問題と捉えていたふしがあるからだ。誰かに管理されて、休憩を取ることもできずに働いている大人たちを思い浮かべることができなかったのだ。

農場が続く片側1車線の道を運転しながら、そんなことを考えた。ホテルに戻ってから、キンドル場で「積読」になっていた『綿の帝国』という本をちょっとだけ読み始めた。表紙の絵が、この日、見たイチゴ農場とそこで働く人たちに似ていたから。