自分語りですみません。高校野球とリアリティショー

たぶん、中学生のときだったと思う。太宰治の「人間失格」の最初だけ読んでやめた。

子供のときから他人を理解できない主人公が、幼いながらも道化を演じることで、自分の本心を隠して生きている。

中学生のときには、体育の時間で鉄棒をしてあえて失敗して、みんなを笑わせる。ところがぼんやりしたタイプのクラスメートに故意に失敗したことを見破られた、というような内容が書いてあった。

幼いときから道化をしてきた主人公が、体育の時間に鉄棒をあえて失敗する、それを見破られる、という話で、私はもう事足りた気がした。(文学作品を読むのが苦手で、その先に書いてある、もっと成長した主人公の暗い話は、当時の私には全く関係ないように思い、パスしてしまった)

読みながら、こういうこと、他の人もやっているんだなと思えた。私も物心ついたときから、常に他人の視線を意識し、それにあわせて、ウケを狙った。無知なフリをして大人に対して残酷なことを言って、あえて反応を見たこともある。それをやってしまった後、強い罪悪感があった。だから、これを読んだときには、安堵した。

そういう醜い性格の私は、運動部でも、うまくなりたいと思うのと同時に、どうやったらうまいように見えて、相手チームを印象操作できるか、を考えていた。

ひねくれていた高校生の私(今もひねくれてます)は、同じ年代の野球部員たちが試合をする高校野球の中継をまともに見られなかった。彼らはさわやかに、純真に、汗をしたたらせて、無心に球を追っている、とテレビは言っている。しかし、もしかしたら、高校球児のなかに、一生懸命にやっているように見えるようにしなければ、とちょっと演じている選手がいるかもしれない、と思っていたからだ。テレビとテレビの向こうが求めるさわやか、ひたむき、純真という期待される物語に、あわせてあげようというサービス精神のある選手がいるのではないか、と。

しかし、本当に一生懸命やっている高校生選手がほとんどであるだろうから、こんなひねくれた見方をして悪いなあとも思った。口に出したり、他人に言ったりはしなかった。

ところが、亡くなったスポーツライターの山際淳司さんの書かれたノンフィクションのなかに、正確には覚えていないけど、こんな文章があった。

高校球児の守備練習を見ていると、明らかに捕れない打球なのに、多くの選手がダイビングキャッチをする。それで、ユニホームの胸のあたりに土がつく。

みたいなことが書いてあった。

捕れそうにない打球でも、ダイビングして、胸に土がつくと、懸命にボールを追いかけていることを示すことができるという文脈だったと記憶している。このときも、読みながら、勝手に理解者がいるとちょっと高揚した。

ここまでの経緯を最初に打ち明けたのは、当時、京都教育大学で指導していただいた杉本厚夫先生だ。これを卒論のテーマにした。指導教官だった杉本先生は、後に、高校野球の社会学という本でのなかで、私の疑問も取り上げてくださっている。

なんで、こんなことを書いたのかというとリアリティショーの出演者が自ら命を絶たれたことについての記事を読んだことで、昔の自分の感情が刺激されたからで。

高校生選手は見てもらうことでお金をもらっていないが、見る人の存在がある限り、他者の視線を意識している選手はいる、と私は今でも思っている。今は、誰もが自分の写真や動画をSNSに投稿することが当たり前になった。自分を見た人からのフィードバックを待つということは日常的に行われている。SNSに自分たちの動画や画像を投稿しておいて、他者からの反応を全く意識しない人はいないと思うし。

高校スポーツ、特に高校野球は、期待されるあるべき姿の枠組みががっちりしている。それにあわせてサービス精神を発揮し、求められるキャラから逸脱しないように「演じる」のは、それなりに負荷のかかることなのではないか。だって、スローボールを投げたり、カット打法をしたり、古くは星稜・松井の敬遠など、ルールの範囲でのパフォーマンスでも、「高校野球のあるべき姿」の範疇か否かで話題になるのだから。

でも、高校球児らしいふるまいやプレーを少々演じている分には、賞賛されても、炎上リスクはないだろう。その辺はリアリティショーで偽悪的にふるまって、批判されるのとは違うのかもしれない。

あんまり大人側が、メディア側が、がっちりとキャラ設定すると、高校生アスリートもラクではないだろうな、と思う。案外、お約束設定、みたいな感じで楽しんでるのかな、と思ったりもするが。でも、あるべき姿のために炎天下で、数日のうちに何百球も投げるのはやめてほしいし。あまり期待あされているキャラ設定を意識すると、自分の感情とうまく折り合いつけられるのかな、と思ったり。

 

というわけで、私はものごころついたときから、見る・見られる・見せる、ことに強い関心がある。

これからしばらくはスポーツイベントは無観客で開催される。私は、見る・見られることによって、選手のパフォーマンスや、メンタルにどのような影響があるのかにとても興味がある。高校野球も甲子園大会は中止と発表されたが、都道府県単位で試合をする計画のところもある。全く他力本願なのだけど、無観客やテレビ中継の有無が、選手のパフォーマンスやメンタルにどのように影響するのか、誰か優秀な研究者の方が、調べてくれないかなと思っている。





新型コロナウイルスの感染を防ぎながら、自主練習、運動部活動はどこまでできるか。米国疾病予防管理センターより。 

 新型コロナウイルスの感染を防ぎながら、自主練習、運動部活動はどこまでできるか。米国疾病予防管理センターより。 

 

 日本政府は7日に、東京など7都府県を対象に緊急事態宣言を発令した。その後も愛知県や石川県などが独自に緊急事態宣言を出している緊急事態宣言下で、外出をすることは避けなければいけないが、散歩や屋外で体を動かすことは良いとされている。 

 

 屋外で体を動かしてもよいといっても、どのようなことならばよいのだろうか。米国疾病予防管理センターが公園、広場の使用やレクリエーションの観点から、一般向けに情報をまとめている。子どもの外遊び、スポーツの自主練習、仲間との練習はどこまでならよいのかの参考になるだろう。 

 

リンクはこちらです。下に私が書いた記事は、このリンクに書かれている順番とは違います。簡単な英語で書かれていますので、英語で読んだほうが早い人はそうしてください。

www.cdc.gov

 

 (米国疾病予防管理センターのホームページParkPlay groundという単語が使われている。Parkの日本語訳では公園だが、オープンスペースでスポーツをしたり、歩いたりできる広場をイメージし、Play groundは遊具などが置いてある公園、または公園内で遊具の置いてあるエリアをイメージして、翻訳した) 

 

以下に米国疾病予防管理センターのホームページにまとめられている情報をまとめた。 

 

組織的なスポーツ活動には参加しない 

一般的に、バスケットボール、野球、サッカー、アメリカンフットボールなど、公園や広場のフィールド、オープンエリア、コートで行われるほとんどの組織的な活動は推奨されていません。これらの活動やスポーツは一般的に同じ世帯ではない、コーチや選手がすぐそばにいる必要があり、COVID-19にさらされる可能性が高くなります 

 

すでに同じ屋根の下で暮らしている家族ならばしかたがないが、これらのスポーツ活動は、チームメート、対戦相手、コーチらと常に社会的距離を保つことが難しいということだろう。 

 

広場やリクリエーション施設に訪れるときには、何に気をつければよいのか。 

 

やってはいけないこと。 

・病気や最近COVID-19に感染した人は公園や広場に行ってはいけません。 

・混雑している広場には行ってはいけません。 

・遊具のある遊び場(Playground)は使わないようにしましょう。 

・水のある遊び場、スパを使わないようにしましょう 

・組織的活動やスポーツには参加してはいけません。 

 

少なくとも常に他の人と2メートルの距離を保つことができないほど混雑している広場に行ってはいけません。 

 

遊具のある公園は、混雑していることが多く、推奨されているガイダンスを簡単に超えてしまう可能性があります。表面を清潔にし、消毒することは困難になりうる可能性があります。 

幼い子どもが汚染された遊具に触れ、手、目、鼻、口を触るとウイルスがばらまかれる可能性があります。 

 

すべきこと。 

自宅から近くの公園や広場に行きましょう。 

公園や広場を訪れるために長距離の移動をすることはCOVID-19の拡散に寄与する可能性があります。 

 

出かける前に準備をしましょう。 

広場や公園、その他のリクリエーション施設をオープンするかどうかは、州や地方自治体が決定します。事前に広場や公園に、トイレや売店などは開いているかを確認し、必要なものを持参しましょう。 

 

少なくとも他の人から6フィート(約2メートル)以上離れる(「社会的距離」)ことと、COVID-19を防ぐための対策をしましょう 

 

公園、広場、ビーチ、レクリエーション施設が一般に開放されている場合は、社会的距離を保ち、頻繁に手を洗い、せきやくしゃみをするときにカバーしたりなどの日常的な行動をしていれば、訪れてもかまいません。 

 

公園、広場、ビーチ、レクリエーション施設を訪れる際には、以下に従って行動してください。 

 

常に他の人から6フィート(約2メートル)以上、離れていてください。そうすることで、オープンエリア、小径をより使いやすくすることができるかもしれません。混雑した場所には入らないこと。世帯外の人との集まりを避けてください。 

 

石鹸と水とで少なくとも20秒間、頻繁に手を洗うようにしましょう。特にトイレに行った後、食事の前、鼻をかんだあと、せきやくしゃみをした後など。 

石鹸と水が使えない場合は、アルコール度数60%以上の手指消毒液を持参して使用しましょう。 

 

スイミングプールやプールの周りでは安全に遊びましょう。自分と他の人との距離を確保しましょう。 

COVID-19が水を介して人間に感染するというエビデンスはありません。プールの適切な運営、メンテナンス、消毒(塩素や臭素を使用)をおこなえば、COVID-19は死滅するはずです。 

しかし、条件はある。 

病気、COVID-19の症状が出ていない場合は、COVID-19の感染を減らす対策を取っている限り、プールを使用しても安全です。他の人から6フィート(約2メートル)離れること。10人以上の集まりを避けること。 

2メートル以上の距離を保つことのできないスイミングプールは利用を避けるということだ。 

石鹸と水とで少なくとも20秒間、頻繁に手を洗うようにしましょう。特にトイレに行った後、食事の前、鼻をかんだあと、せきやくしゃみをした後など。 

石鹸と水が使えない場合は、アルコール度数60%以上の手指消毒液を持参して使用しましょう。 

 

しかし、次のような理由からホットタブと呼ばれるお湯の入った浴槽、温水ジャグジーのようなものは使用するべきではないとしている。 

 

・混雑していることが多く、推奨されているガイダンスを簡単に超えてしまう可能性があります。 

・表面を清潔に保ち、消毒することは困難な場合があります。 

・人々が表面に触れたものを触った後、洗っていない手が目や鼻、口に触れたときにウイルスが広がる可能性があります。 

 

これまでにも他の人と少なくとも2メートル以上あけること、手をよく洗うこと、せきやくしゃみで飛沫を飛ばさないようにすることなどは伝えられてきた。 

 

米疾病予防管理センターの告知にしたがうと、チーム単位でのスポーツ活動は、他の人と距離をあけることが難しいという観点から、行うべきではないと言えるだろう。個人で場所を見つけ、トレーニングしなければいけない状況にあるだろうが、オンライン上であっても、チームやグループのつながりを失わず、うまく情報を共有できれば、と思う。

ここまで書いてきて、ここからは個人の感想ですが、やはり住環境による自主練習できる環境の格差は出てくると思います。家が広い、狭いだけでなく、家から行ける範囲にボールを使える場所はあるか(普段からないところが多いと思います)など。

報道によると、ニューヨーク市内はプレイグラウンド、いわゆる遊具のある公園が閉鎖されているそうです。混雑が予想され、2メートル以上の間隔をあけるのが難しいから、というのが大きな理由です。

外出禁止もこれだけ長くなり、公園にも行けないとなると、子どももストレスがたまるでしょうから、1日を4分割ぐらいして、地区ごととか、名前のアルファベット順(あいうえお順)とかに分けて、間隔をあけて遊べたらいいのになと思います。

追記 日本では、外でどのように活動すればよいのか、体を動かしてよいのか、指針がないとツイッターで教えてもらいました。個人は日本では三密を避けるという指針があるので、それに従って、自分で工夫すればよいと、私は考えています。しかし、ユーススポーツの運営者、管理者、自治体の公園局の管理者には医学的観点からの指針があるほうが仕事がしやすいと思います。

 

過去の組み立て体操の記事

 組体操とチアリーディング

この記事は2015年にウェブ論座に掲載したものです。もとがリンク切れになったため、こちらに残します。

 

 日本では運動会のシーズン。見栄えのする組体操は花形種目のひとつだ。

 日本の運動会で発表される組体操は、最近、巨大化、高度化、低年齢化がすすんでいるという。高さ7メートルに達する10段、11段のピラミッドがあるそうだ。 名古屋大学大学院教育発達科学研究科の内田良准教授が日本スポーツ振興センターの資料から調べたものによると、2012年度の小学校の体育活動時における事故発生件数は6533件で、跳び箱運動、バスケットボールに次いで3番目に多いものとなっているという。今年5月には熊本県の中学校で組体操のピラミッド練習中にいちばん下にいた男子生徒が全治1か月程度の腰椎骨折と診断される大けがをしたそうだ。高所に上る児童・生徒だけでなく、土台になる子どもたちも大きなケガをすることがある。

 

 -各国運動会事情-

 では、日本以外で学校行事として運動会があり、組体操のような演技種目を行っているところはあるのだろうか。グローバルプレスの執筆陣から回答をもらった。

 

 中国北京(斎藤淳子さん)

 運動会は毎年行われているが、日本のように大掛かりなものではなく、縄跳び、徒競走、リレーなどがある程度。組体操に類する出し物はない。

 

イギリス・ロンドン(冨久岡ナヲさん)

「スポーツ・デー」はあるが、(個人競技が多く)日本の運動会とは趣旨が異なる。組体操のようなものはない。

 

  シンガポール(田嶋麻里江さん)

 ローカル校では運動会に相当するものはない。インターナショナル校では独自にスポーツイベントを行っている学校はあるようだが、日本式の運動会はまずないと思われる。

 

 スイス連邦チューリッヒチューリッヒ市第8区。(中東生さん)

 スポーツデイがある。組体操のようなものはない。

 

 ミャンマーヤンゴン(板坂真季さん)

運動会はない。学校や地域によって体育の授業自体がないところもある。組体操はない。

 

『体育科教育2014年9月号』(大修館書店)によると、シリアについては「多くの学校では、日本のような体育館や土の運動場が見当たらない。運動場はタイル張りの校庭というのが一般的なスタイルである」とレポートされており、ドミニカ共和国についても「地域や学校によっては体育が実施されていない」と報告されている。

 

 筆者の住む米国ミシガン州

 フィールドデーという学校行事があるが、球技大会や徒競走、リレーのようなものをして「遊ぶ」もので、日本の運動会とは異なる。全員参加の組体操もない。

 

 今回、回答をもらった国では運動会そのものがないか、運動会があっても組体操のような集団演技は行われていないようだ。

 

-チアリーディングと組体操― 

 米国では運動会の種目として組体操は行われていない。しかし、比較的似た要素を持つチアリーディングがある。かつては女子生徒中心の振付による応援スタイルであったが、ここ20-30年の間に一気に競技化し、演技の高度化、スタンツ化がすすんでいる。

 ベースの人に持ち上げられた2段目の人は片足立ちをするだけでなく、トランポリンを利用しているかのように投げ上げられた状態から回転ジャンプすることもある。それを土台となる人たちが受け止める。

 2012年に米国小児科学会では、チアリーディングは、スポーツ時のケガの原因に占める割合は少ないものの深刻なケガの起こりやすい種目であると警告を発している。

 米国小児科学会では、次のようなチアリーディングの安全基準を提案している。

 「チアリーディングはスポーツと見なされなければならない。そして、他のスポーツと同様に、資格のあるコーチによる指導、医療へのアクセス、練習の制限、施設の充実、ケガの監視データの包括が行われなければならない」としている。他の競技スポーツで考慮されているのと同等の安全基準が必要であるということだ。

 チアリーディングでは、日本の組体操のピラミッドとはやや異なるが「ピラミッド」という形がある。日本のように土台の人の背中に乗るものだけでなく、土台の人も上の人も立った状態で積み上げていく。この状態で上の人をリフティングしたり、投げ上げたり、受け止めたりするという技もある。米国小児科学会では「ピラミッドなどを行う場合は練習でも競技であっても、フォーム状かバネのやわらかいところか、芝地やターフでのみ行わなければならない」と落下のリスクを見込んでクッション性のある場所で行うよう強調。「ピラミッドは2人分の身長の高さを超えるべきではない」と高さを制限している。AACCAと称される米国チアリーディングコーチ・管理者の協会でも詳細な安全基準を作り、ホームページにも安全に関する項目を設け、参加する選手や保護者によくわかるようにしている。

 米国では、大けがの発生を指摘されているチアリーディングだが、チアリーディングの競技化そのものを止めるという動きは起こっていないようだ。ただし、大けがのリスクを減らすための基準作りには着手している。

 日本の組体操でも、米国のチアリーディングのように医療や教育分野の専門家たちがリスクをよく検証し、子どもの発達に応じた制限や安全のガイドラインを設けるというのはどうだろうか。チアリーディングは学校の児童・生徒全員が参加するものではなく、希望者と保護者がケガのリスクを知って参加している。学年全員が参加するような運動会の組体操では、子どもたちの体力やバランスの能力により配慮が必要になるだろう。組体操に一定の制限や安全基準を設け、高さや大きさを目標に掲げなくても、児童や生徒はお互いの身体によってひとつのものを作り出して発表するという一体感や達成感は十分に体感できると、筆者は考えている。

 

写真 チアリーディングでも組体操と類似する動きがある。

  1. 赤いユニホーム着用の4人組での演技。©123rf/william Perugini

2、カリフォルニア州の高校フットボールチアリーダーによる演技。(黄色と青のユニホーム)©Americanspirit/Dreamstime.com