平尾さんのミシマガジン連載を読んで、また思い出したことがあったので、書いてみます。http://www.mishimaga.com/chikakute/014.html
昔、エンゼルスにチャック・フィンリーという長身(イケメン)左投手がいた。長谷川滋利さんがオリックスからエンゼルスに入団したころ、エースとして活躍していたピッチャーだ。
このフィンリーは、打者がセンターにはじき返すような打球を、よく体に当てる人だった。投手は、ぱっとグローブを出して捕球したり、ボールをはたき落すこともあるが、うまく避けたほうがよいケースもある。利き腕にでも当たったら、骨折など故障の原因となる。ところが、フィンリーは打球を避けるということをあまりしない人だった。
フィンリーはボールが身体に当たっても、わりと平気な顔をして、続けてピッチングをしていたように記憶している。
(骨折しながらも、気づかずに投げていたという試合があったはずなのだが、それは私の勘違いだったようで、検索しても見当たらなかった。よく打球が当たっていたという記憶は間違ってなくて、1998年のカンザスシティ戦では長谷川投手が救援している。この試合は私は見ていない。エンゼルスの本拠地で打球に当たった姿は2度ほど記憶している。まだデジタル化してなくて新聞紙面のスキャン! ちなみにフィンリーはブルペンにいるときにファウルボールが当たったり、打撃練習中にもボールが当たっている)http://news.google.com/newspapers?nid=1291&dat=19980725&id=6yNUAAAAIBAJ&sjid=LY4DAAAAIBAJ&pg=1758,2187713
とにかく、フィンリーは投げられないほどの痛みを感じていなかったのではないだろうか。すぐに交代した試合をのぞいては、だけども。
さっき、エンゼルスの担当記者に教えていただいたのだけれど、今年はエンゼルスの右腕投手のジェレッド・フィーバーが左ひじに打球を受けた。直後の検査では骨折とは分からず、本人も痛みはあったけれども、すぐに試合に復帰できると考えていた。ところが、翌日の再検査で骨折していることが分かり、本人はびっくり、大ショックだったらしい。復帰まで4-6週間と診断された。
今、メジャーリーグはプレーオフ。選手は長いシーズン戦ってきて、身体は限界に近いが、負けたら終わりの短期決戦だけに痛みとつきあいながらプレーしている選手も少なくない。
先日、取材した試合、タイガースのトリー・ハンター外野手も、試合開始直後のプレーで肩を痛めたのだが、こんなふうにコメントしている。When adrenaline takes over, that’s your pain reliever. That’s what I did today.”「アドレナリンが鎮痛剤だ」と。
昨季、三冠王獲得し、3年連続首位打者の主砲カブレラは、見ている人にもはっきりわかるくらい、左足付け根が相当に痛い様子。スイングのときに腰から下の力が使えなくて、外野フライを打っている。好調時の彼なら本塁打にできていたのではないかと思う打席が少なくとも2度あった。
痛みを抱えながらプレーオフを戦っている選手たちは、自分の痛みの閾値を、痛みどめの薬やアドレナリンで意識的に限界まで引き上げ、現在の身体の状態でできるプレーを模索しているように見える。
でも、プロ選手でない、若い人はマネするべきではないと思う。痛みの閾値が他の選手とやや違う選手もいる。いずれにしてもプロやトップ選手がここぞというときに、一時的に解禁するといった種類のものなのだから。
目利きのトレーナーだと、痛がってなくても、これは…と、分かるのかもしれない。選手が「痛くない」「大丈夫」といっても、プレーを続行させてはいけないケースもあるし。
平尾さんのまとめの段落に私は100%同意。
ただちに休まなければならない痛み、軽く動かしながら治癒できる痛み、試合は無理だが練習ならできる痛みなど、微細な違いを感知すべく意識を向ける。我慢するのではなく、積極的に認めつつ見極める。これは身体との対話であり、自らの身体の癖を知るためのひとつの方法だと思う。だから指導者が無理矢理プレーさせるのはまったくのナンセンスだし、痛み止めの注射を打ってプレーするのは、追い込まれたプロスポーツ選手でもないかぎりやめた方がよいと僕は思う。
私も自分の子どもにスポーツ時のケガについては、このように話していたので、「元トップアスリートで、指導者でもある人の考えと大きくズレてなかった!」と実はひとりでこっそり喜んだ。
あと、私自身が「選手のケガ」について忘れないようにメモを付け加えておくと、脳震盪の危険に対して適切に対応しなかったとして、元選手4000人以上がNFLを訴えていたが、先日、NFL側が補償金を支払うことで和解した。
NFLと選手の和解は米国でも大きなニュースになったけれども、実はこれ以外にも元プロ選手がケガの保障について訴えているケースが多くある。
カリフォルニア州には労働者災害保険法に基づき保険給付がされるのだが、多くの元プロスポーツ選手が、雇い主であるプロチームを告訴しているそうだ。ここ6年間では940人以上と報道されている。
自分の身体、ケガ、訴訟、球団、選手…。
元記事はここ。