科学に基づいた子育て
私は米国在住です。
こちらでも、書店に行くと多くの育児雑誌が並べられています。食事や栄養の摂らせ方、兄弟けんか、保育園や託児所でのトラブルの解決法など、毎号、毎号、様々な話題が取上げられています。雑誌のなかには年齢別に問題とその解決法を掲載しているものもあります。
これらの解決法は、その専門家、または専門家と名乗っている人のコメントが元になっているものが多いようです。または、読者からの投稿で「うちの子どもにはこういう対応でうまくいった」というのも載っています。
育児雑誌も他の雑誌と同様に多くの広告が入っています。ミルクや紙おむつ、瓶詰めの離乳食、お菓子、おもちゃなどです。これらの広告には、科学的にどうしてこのお菓子が体によいのか、どうして、このミルクが赤ちゃんによいのか、というデータやグラフが付いています。リサーチを前面に押し出した広告が育児業界では必須です。どの親も、まだ、自分でできることがほとんどない乳幼児に対して、なんとかベストを尽くしたいと思っていますから。
研究結果とビジネスがはっきりと結びついたのは、1990年代ごろからの傾向だと思われます。それというのも、ちょうど、このころ赤ちゃんの脳の発達についての研究記事が盛んに表に出てきたからです。バイリンガル教育や絶対音感などの臨界期も話題になりました。また、赤ちゃんであっても本の読み聞かせをしてあげることが大事とも言われました。
私の長男が生まれたのが2002年だったので、そういうものが社会に定着してきたなかでの子育てでした。世代の違う子育て経験者の意見はそれほど重要視されず、教養のある親ほど、専門家の意見を重視し、最新の研究結果に基づく育児用品を買ったのではないかと思います。
子ども業界は「教育的に効果がある」という研究結果を親にアピールできるかどうかが売れ行きのカギを握るとされています。赤ちゃん用のビデオや厚紙で作られたボードブックが普及したのもこのころかと思われます。
学校教育の場でも最も効果があるとされる指導法や教授法が取り入れられます。毎年、年度初めに担任の先生から保護者向けにカリキュラムの説明が行われます。そのときには「最新の研究結果に基づき、今年からスペリングのテストはしません」などという説明がなされます。
学校で新しい指導法が取り入れられることは、教材の販売など大きなビジネスに発展します。
科学的子育て社会。これほど多くのデータが目の前に出され、しかも、それがビジネスと結びついているとなると、学校の指導法を含めて、何を信用していいのか分からなくなりますが…。