まだメモ書き。米国発 運動部のコーチは教員の仕事か(2)そろばん編

3,コーチ報酬の体系化

1948年には、National Accociation Of Secondary-School Principalsという高校の校長連合の学術誌?、ミネソタ州ミネアポリスの公立学校の学校管理研究者であるA.I.HeggerstonがExtra Pay For Extra Workという学術論文が発表した。https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/019263654803215718

勤務内容に追加される課外活動の指導は教員の仕事か否か、追加の労働の対価を払うべきかどうかが論じられている。

論文のはじめに、Heggerstonは自身の意見として、「多くの活動の指導は教員の通常の仕事の一部であるが、そのいくつかは追加の仕事としての支払いを求めるものだ」と述べている。

学校のなかで、全教員の仕事量が等しくなるように割り振ることは難しく、準備に時間がかかる仕事もある。一部の教員が常に他の教員よりも多くの仕事量を与えられているならば、不満が生ずる。仕事量が異なることが避けられないのであれば、報酬も異ならなければいけない、としている。しかし、多くの教員は追加の仕事に対する報酬には強い反対をしているという記述も。単一給与体系の原則に違反しているからだというのが理由だという。

Heggestonは、教員の時間外の教員の時間外の仕事には、報酬を支払うべきと主張しているが、教員は正規の勤務時間での業務が最も重要であり、課外の仕事のほうにより注力することがあってはいけないと意見を述べている。他の教員よりも常に多くの仕事をしている教員、課外活動の指導などの時間外の仕事をしている教員には、その対価を支払う。しかし、その対価の金額は、課外の仕事を受け持っていない教員の給与に比べて、大きな違いであってはいけないという主張だ。

また、教員の指示を必要とする生徒の活動はさまざまである、としている。単にどのくらいの時間を要するかということだけでなく、教育的価値があるかが含まれる。生徒たちの活動の方向性に対する責任は、教員の仕事の一部であり、重要な仕事だとしている。

 この論文はResearch Division of National Education Association(1947年10月)は以下のような結論を述べている、と引用している。

「通常の学校の業務以外の時間帯に何かを行った場合や、通常の課外授業の負荷を超えた仕事に対して、余分に給料を支給する慣習は、議論の余地はあるが、珍しいものではない。この問題に関する何らかの明確な声明を給与表に記載すべきであり、割増賃金の方針が決定された場合には、賃金の額および条件を明確にしなければならない」

Heggestonの論文によると、ミネアポリス教育委員会は、1946 年 4 月 30 日、最高責任者の推薦を受けて、高校の通常の学校日(定められた勤務時間)の定義と、定められた勤務時間を超えて割り当てられた職務の報酬表を採択した。

これまで、ミネアポリスでは課外活動の指導に対して、何らかの報酬を支払う慣行はあった。その報酬は個々の学校の財源から出ていた。しかし、学校が時間外の労働についてより統一的で明確な報酬表を採択することで、不平等を減らすためだとしている。

ミネアポリス教育委員会の提案では、メジャーな運動部種目の指導には、100ドルから350ドルまでの報酬を支払う。マイナーな運動部種目の指導には、50ドルから100ドルを支払う。音楽のコンサートなどは勤務時間内の仕事であるが、学校の時間外に演奏の指導をする場合には、時間外の報酬を支払う。

この規則を設けるにあたっての予想される反発としては、(1)単一の給与体系を崩すことは、教師自らが専門的な活動をすることを阻害するというもの。(2)時間外報酬の対象になる課外活動の指導、時間外の仕事が少ない。(3)または、報酬の金額が少ない。

また、ミネアポリス委員会の提案による恩恵として次の3点を挙げている。(1)管理職に勤務時間外の仕事は対価を支払わなければいけないことを認識させる。(2)各学校単位で慣行として支払われている時間外指導の報酬は、不規則で安定していないことの解消。(3)仕事の公平な配分に目を向け、それによって教員の負担の平等性を高める。

この論文からは、これまで課外活動の指導など、時間外の勤務に対して、何らかの報酬を与えることは慣行としてあったが、今後は、給与体系に、時間外勤務としての報酬を与える規則の決定と、賃金の額や条件を明らかにしていくという動きが出てきたことがわかる。また、単一の給与体系を崩すことに多くの教師たちが反対していたという記述から、時間内の勤務だけを希望する、または、時間外勤務も通常の仕事である、という考えがあったことが推測される。

 

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5,勤務時間外の仕事に対する報酬金額を22項目を含む3要素から算出。すごい細かい!

 

1960年には、米インディアナ州のパデュー大学とインディアナ州のサウスベント市(カブス傘下のマイナーチームのある小さい街)の学校区による時間外勤務と報酬についての論文が発表されている。https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/019263656104526701

 

この論文でも、American Association of School Administrators and National Education Association Research Divisionが1959−60年度に、人口3万以上の554学区に、教員の時間外勤務に報酬を払っているかを質問したところ、493学区から支払っているという回答があったとしている。慣習的に報酬を支払っていたか、明文化したうえで、税金などの公的な財源から支払っていたかはわからないが、この調査では調査対象の9割近い学区で勤務時間外の仕事に報酬が支払われていたことがわかる。

 

パデュー大学とサウスベント市の調査は、教員の勤務時間外の仕事に対しては報酬を支払うことが前提で、そのうえで、どのように報酬の金額を定めるのかということを対象にしている。

報酬の金額を定める要因として(1)本来の勤務を上回る時間数(2)その質とその仕事の重要性(3)教員の基本の給与額 

本来の勤務を上回る時間数について。小学生の陸上部のコーチは年間の時間外勤務が27時間だが、高校のアメリカンフットボール部は年間の時間外勤務が489時間に上るとしている。運動部活動の指導をすると一口で言っても、どのくらいの時間を求められるかが違う。これを求められる時間によって10段階で分けるという試みをする。

 

その仕事の重要性については21の要因を作り、点数化することで、重要性を算出する試みをした。

1,追加で必要となる正式な学歴、免許など

2,その仕事をするのに、これまでの経験が必要なもの

3,個人的に知識の獲得が求められるもの

4,ルーティン、システム、手順の知識が必要なもの

5,特別な技術が必要なもの。 筋力、巧みさ、音楽、美術の技術

6,イニシアティブ。新たにスタートさせることが求められる

7,判断。学校のシステム全体に影響を及ぼす判断が求められるもの

8,クリエイティブさが求められる。

9,注意を払うことが求められる

10,身体的な労働を求められる

11,天候、騒音などの労働状況

12、他の学校の教職員との関係が求められる

13,学校外との関係が求められる

14,達成基準を求められる

15,監督上の責任がある

16,管理・運営の責任が求められる

17,教育上の責任が求められる

18,規則の作成や解釈を行う

19,煩雑な業務

22,学校の用具・器具の管理

21,子どもの健康、安全な行動

22,金銭の管理

 

勤務時間外の労働に対する報酬は、

その教師の基本給に、時間外労働の時間数を係数にして掛け、さらに上記の22項目によって算出した労働の質の係数をかけて算出するという提案である。時間数は年間の勤務時間1800時間に対して、定められた勤務を超過する労働が何時間あるかを基準にし、たとえば超過時間が100時間の場合は、1800分の100を係数とする。

 

学校運動部を統括・管理するアスレティック・ディレクターの時間外報酬は次のように計算する。この教員の基本給が5000ドルであった場合、時間量として1800分の250をかけ、仕事の質として0.6をかける。時間外報酬は425ドルとなる。

 

例の2としては、高校のアメリカンフットボールのアシスタントコーチの時間外報酬の計算指揮である。この教員の基本給が6000ドルであり、時間量として1800分の350をかけ、仕事の質として0・5をかける。時間外の報酬は575ドルとなる。

(5年くらい前に外部指導者を取材したときには、運動部指導の報酬は、教員の給与の一割程度と教えてもらった。この60年前の算出法でも1割程度になっている!)

これはインディアナ州サウスベント地区の時間外労働の報酬手当だが、時間外の仕事といっても、その労働や責任の軽重やさまざまであり、できるだけ労働と責任の軽重に応じた報酬を支払おうという試みがなされていることがわかる。この論文では、時間外の労働として44種類を挙げている。そのすべてはわからないが、高校のアメリカンフットボール部から、昼休み時間の監督・監視まで、となっていて、ディベート部の活動が含まれていることが読み取れる。昼休み時間の監督・監視の仕事は、生徒たちは昼休みになると、カフェテリアで昼食をとったり、校舎内やグラウンドに出ることがあるが、これらの様子を監督するものだ。

(3)へ続く。ここクリックしてください。https://blog.hatena.ne.jp/kiyoko26/kiyoko26.hatenablog.com/edit